Project Story #02
岡山パン本
What’s work?
2024年に創刊した『岡山パン本』。ある社員の「パンが好き」という想いから始まった企画が、地域を巻き込み、多くの人を動かすプロジェクトへと広がっていきました。
地域の魅力をどう掘り起こし、どう届けるのか。
そのリアルを、プロジェクトメンバー3名の対談から紐解きます。
地域の魅力をどう掘り起こし、どう届けるのか。
そのリアルを、プロジェクトメンバー3名の対談から紐解きます。
Project Member
(左から順に)
K.K…コンテンツ開発局 局長。『タウン情報おかやま』の編集長も務める。
S.A…『岡山パン本』の創刊編集長として、立ち上げ、展開に関わる。
T.E…『岡山パン本』のデザイナーとして、誌面、グッズデザインに関わる。
※所属は取材当時のものです
K.K…コンテンツ開発局 局長。『タウン情報おかやま』の編集長も務める。
S.A…『岡山パン本』の創刊編集長として、立ち上げ、展開に関わる。
T.E…『岡山パン本』のデザイナーとして、誌面、グッズデザインに関わる。
※所属は取材当時のものです
01 プロジェクト背景とその始まり
『岡山パン本』はどのようなきっかけでスタートしたのですか?
S.A:もともとは「Webタウン情報おかやま」で始めた連載「パンのとりこ」がスタートです。3年間で約80店舗を取材しました。高校時代からパンが好きで、ベーグルを自分で焼くほどだったので、テーマを決めるときに「パンでいきたい」と。岡山はパン消費量も多いというデータもあったので、これは深掘りできると思いました。
K.K:岡山県内には約340店舗(2026年2月現在)のパン屋さんがあります。市場規模としても十分成立する可能性があった。ただ、“好き”だけでは事業にはならない。そこをどう設計するかがポイントでした。
S.A:編集部に異動してから『オセラ』でパン特集を担当し、その後「別冊を作ってみないか」と声をかけてもらいました。ただ、いきなり作るのではなく、1年かけてヒアリングをしたんです。広告はいくらなら出してもらえるか、どういう見せ方がいいか。感覚ではなく、数字と声を集めていきました。
WEB連載時から取っている取材メモ。これまでの取材軒数は、120軒を超える。
経営会議で問われたのは、「本当に好きか?」だったそうですね。
S.A:最初は社内からも「パンでお金を出してもらうのは難しいのでは」という懐疑的な声もありました。でも、経営会議で提案した際に、ある経営陣の方が「パンが好きなのか?」と聞いてくださって。「好きです」と答えたら、「ならやってみたらいい」と。
K.K:新規事業は、熱量を持って走れる人がいないと成功しません。連載も自ら立ち上げてきたS.Aさんならやり切れると思いました。会社から与えられたテーマではなく、自分の意志でやりたいと言える人であることが決め手でした。
02 走り出した『岡山パン本』企画~制作まで
企画~制作の過程はどのように進んだのでしょうか?
K.K:いきなり企画を始めるのではなく、1年ほどかけて市場調査をしてもらったんです。印刷費や原価を考えると、綿密な収支設計が必要でした。
S.A:これまでの取材先など関係値を活かして、1年かけて約80店舗にヒアリングをしました。「こういう本を新しく立ち上げたら興味ありますか」なども含めて、リアルな金額感とかを1店舗ずつ聞いていきました。
K.K:S.Aさんのヒアリングがあったからこそ、「これならいけるかもしれない」と判断できました。そこでようやくゴーサインです。
S.A:そこからは一気でしたね。320軒のアタックリストを作り、「全軒営業に回る」と決めました。他の営業チームやアシスタントさんにも協力いただき、全軒に案内をしていきました。形がない状態で企画書だけを持って営業するのは不安もありましたが、これまで築いた信頼関係が支えでした。
K.K:当初の広告目標は300万円台。軒数で言えば12~13軒くらいを想定していたんです。それが、ふたを開けたら『岡山パン本1』では62軒が集まりました。これには正直、驚きました。
S.A:私もそこまでとは予想していなかったので、嬉しい驚きでした。
K.K:S.Aさんが先頭に立って営業していたのが大きかったですね。「これは本気だな」と社内の空気が変わった。誰かが本気で走ると、人はついてくる。営業利益は目標対比235%。まさに驚異的な決定率でした。
S.A:企画をつくって終わりではなく、営業も含めて、最後まで責任を持ちたいという思いがあったんです。編集長だからこそ、自分が一番走る。それが、ずっと大事にしているスタンスですね。
『岡山パン本』と言えば、ポップな表紙が印象的です
K.K:この表紙は当初編集部で物議をかもしましたよね(笑)。
S.A:そうですね。パンのムック本って、どうしても“茶色”のイメージが強いんです。小麦色、木目、クラフト紙…。それはそれで王道だと思います。でも、私がつくりたかったのは「持ち歩きたくなる本」でした。カフェのテーブルに置いても映えるし、バッグから取り出したときに少し誇らしい。そんなイメージをデザイナーのT.Eさんに伝えました。
T.E:色々な色の組み合わせを試す中で、書店で埋もれない色は何かと考えたとき、青が浮かびました。ただ、青っていわゆる「食欲減退色」って言われるじゃないですか。
S.A:そこはかなり議論しましたよね(笑)。
K.K:「食べ物なのに青?」という反対意見もありました。
S.A:でもこの本は“軽やかさ”を伝えたかった。バッグに入れてパン巡りに持っていける本。青空の下でページをめくるようなイメージです。
T.E:実際、10種類以上の青を並べて検証しました。微妙なトーンの違いで印象が全然変わるので。
S.A:最終的には、「パンって、ただの食品というより、ちょっと雑貨っぽい存在でもあるよね」という話になって。だったら青と組み合わせても、そこまでネガティブにはならないんじゃないか、と。そんな流れで、今の表紙に決まりました。
K.K:あの時間があったからこそ、「持ち歩きたくなる本」というコンセプトが、よりはっきり言語化できた気がします。
03 『岡山パン本』発売後の反響と今後の展望
発売後、イベントやキャンペーンも仕掛けていった背景にはどんな思いがあったのでしょうか?
S.A:創刊時から、「人を動かすことができる本にしたい」という思いがありました。そこで、『岡山パン本2』発行時には、県内の文具店とコラボイベントを開催したり、本に掲載されているパン屋を巡って缶バッジを集めるキャンペーンを開催したりしました。
K.K:イベントをした時には、S.Aさん自らが店頭に立って接客していましたよね。
S.A:立ってましたね(笑)。直接読者の方と話す時間はすごく楽しくて。「この本持ってパン屋さん行きました」って聞くと、ちゃんと届いているなと実感しました。
K.K:あの熱量はすごかったですよ。企画だけじゃなくて、自分が一番楽しんでいる感じが伝わってきました。
S.A:今後はパン好きの会員コミュニティを広げたいです。ゆくゆくはパン巡りツアーや試食会など、本を超えた体験を作りたいと思っています。
K.K:目指すのは、パン屋さんと生活者をつなぐ双方向のネットワーク。情報を届けるだけでなく、声を循環させる存在になること。バスツアーをしたり、地域の飲食店と組んで“パンのフルコース”みたいな企画をやったり。本からコミュニティへ。地域をつなぐハブになることを目指しています。それが“地域の鼓動をつくる”ことにも繋がると思っています。
T.E:「パンシェルジュ猫」というキャラクターも生まれました。いろんなグッズ展開だったり、イベントとかでオリジナルの焼印を付けたパンを販売するとかも面白そうですよね。
S.A:本から始まって、イベント、キャラクター、コミュニティ…。パンのことを考えていると、本当に夢が膨らみます!
キャンペーンのプレゼント用に、コーヒー店とコラボしてつくった「パンに合うドリップコーヒー」
04 "好き"を仕事にするということ
ビザビの仕事は、個人の"好き"や熱意が仕事に繋がるケースも多いですよね。ただ、個人の“好き”を大衆の“好き”に変換するのは難しいのではないかとも感じます。そのバランスはどう意識されていますか?
S.A:まず前提にあるのは、「自分が本当に可愛いと思えるか」「自分が本当にワクワクするか」です。企画でも企画でも、そこは絶対に外せない。
でも、それだけだと視野が狭くなってしまう。だから一度フラットに戻ることは、常に意識しています。
実際に、『岡山パン本』の制作過程では、社内もそうですが、むしろ社外の方にたくさん聞きました。パン屋さんだけでなく、まったく違う業種の方にも「どっちの表紙がいいと思いますか?」と。
でも、それだけだと視野が狭くなってしまう。だから一度フラットに戻ることは、常に意識しています。
実際に、『岡山パン本』の制作過程では、社内もそうですが、むしろ社外の方にたくさん聞きました。パン屋さんだけでなく、まったく違う業種の方にも「どっちの表紙がいいと思いますか?」と。
出版業界は今後も形を変えていく中で、『岡山パン本』というプロジェクトはビザビにどんな影響を与えたのでしょうか?
K.K:根底にあったのは、「ワクワクさせたい」という思いです。これまでも『タウン情報おかやま』や『オセラ』などの雑誌で地域の魅力を伝えてきましたが、今は趣味嗜好が細分化している時代です。
その中で、好きな人にしっかり刺さる作り方をした。『岡山パン本』は、その一つの答えだったと思います。
これは本に限らず、Webでも、SNSでも何にしても同じです。「誰に、何を、どうやって届けるか」。その設計力が問われる。
大切なのは、生活者を楽しませる視点です。
この街で暮らしてきたからこそ持てる“審美眼”で、「本当に面白いか」「喜んでもらえるか」を問い直すこと。
好きという熱量と、フラットな視点。その両立があってこそ、価値は生まれると思っています。
『岡山パン本』の挑戦は、出版部門に限らず、ビザビ全体に通じる姿勢を示した取り組みだったと思います。
その中で、好きな人にしっかり刺さる作り方をした。『岡山パン本』は、その一つの答えだったと思います。
これは本に限らず、Webでも、SNSでも何にしても同じです。「誰に、何を、どうやって届けるか」。その設計力が問われる。
大切なのは、生活者を楽しませる視点です。
この街で暮らしてきたからこそ持てる“審美眼”で、「本当に面白いか」「喜んでもらえるか」を問い直すこと。
好きという熱量と、フラットな視点。その両立があってこそ、価値は生まれると思っています。
『岡山パン本』の挑戦は、出版部門に限らず、ビザビ全体に通じる姿勢を示した取り組みだったと思います。